第52回日本生態学会 ・自由集会・ 木材解剖特性からみた熱帯樹木の生態 -熱帯林研究の新しい展開-

タイ熱帯季節林に生育するフタバガキ科樹木の道管の径と分布数

○丹路 武道・岡田 直紀・野渕 正(京大院・農)・S. Siripatanadilok, T. Veenin(カセサート大)

はじめに
樹幹の木部構造は,樹種の形態や分布と密接な関係があると考えられる。中でも水分通導機能を果たしている道管は,樹種の水分環境と関係があると考えられている。本研究では,異なった水分環境に生育するフタバガキ科樹木の道管を計量し,その違いが,それぞれの生育環境への適応においてどのような役割を果たしているかを明らかにすることを目的とした。

調査地と試料
タイのナコンラチャシマ県サケラートにおいて,水分環境の異なる乾燥落葉林および乾燥常緑林、そして常緑林の中の川沿いの3ヵ所で調査をおこなった。対象とした樹種はいずれもフタバガキ科で,Dipterocarpus,Hopea,Shorea の3属から11樹種,計53個体を採取した。

調査地と試料
成長錐で採取した試料より,形成層から2cmの部分からミクロトームを用いて厚さ25_mの木口面切片を切り出し,定法によりサフラニン染色を行い,プレパラートを作製した。その後,フィルムスキャナー(Polaroid社製,POLASCAN PS-4000U),画像解析ソフト(Adobe Photoshop、Image tool)を用いて道管内腔の径,面積,単位面積あたりの道管数を測定した。

結果と考察
水分環境の異なる生育地の樹種について,道管内腔のサイズ分布を内腔面積で比較した(下図)。Hopea の2樹種を例外として,いずれの樹種でも平均面積はおよそ30000 um2で最大道管の面積は50000um2(直径約250 um)を超えた。生育地の乾燥の度合いがすすむにつれて10000um2(直径約56 um)以下の小道管の割合が増加し,乾燥落葉林の樹種では道管サイズはしばしば双山型の分布を示した。水分環境の変化にともなう道管サイズのこのような変化は,乾燥ストレスによって引き起こされる道管閉塞に対処するための適応であると推測される。つまり、乾燥落葉林に生育する樹木は、大きな道管によって効率的な水輸送をおこなう一方で、乾燥による道管閉鎖のリスクを回避するため、閉鎖が起こりにくい小さな道管も同時に持っていると考えられる。


図 水分環境の異なる樹種ごとの道管面積の分布


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