第52回日本生態学会 ・自由集会・ 木材解剖特性からみた熱帯樹木の生態 -熱帯林研究の新しい展開-

キナバル山の異なる標高に生育する樹種と木部構造の多様性

京都大学生態学研究センター 清野達之

はじめに
一般に,環境ストレスの低い森林では高い樹種多様性と林冠高からなる森林が構成され,環境ストレスが厳しい森林では低い樹種多様性と林冠高からなる森林が構成される.では,環境ストレスの違いが,どのように生育する樹木の木部構造の違いに影響を及ぼし,それが林冠高や樹種多様性の違いに結びついているのだろうか.ここでは,標高の違いによる低地林と山地林の林冠高と樹種多様性の違いに着目し,それを林冠構成種の木部構造の違いから説明することを試みた.

材料と方法
マレイシア・ボルネオ島・キナバル山の堆積岩起源の低地林(標高約600 m)と山地林(標高約 1600 m)のそれぞれ二箇所に調査地を設定した.両サイトの林冠構成種(低地林11種,山地林12種)を選択し,材の容積密度,木部構造として,道管1個あたりの平均内腔面積,単位面積あたりの道管分布数,単位面積あたりの道管の占有率を測定した.

結果と考察
結果と考察 材の容積密度は低地林で低く,山地林で高い傾向にあった.低地林と山地林の標高間の比較では,低地林では高い樹高にも関わらず,材密度のレンジの幅が多様である傾向がみられた.一方,山地林では材密度のレンジが収束している傾向がみられた.この関係は,これまでキナバル山で報告されている種多様性の変化と対応しており,種と材容積密度の多様性が結びついていることが分かった. 材の解剖特性は,低地林の林冠を構成する樹種は単位面積あたり低い密度ではあるが大きい径の道管配置をしており,山地林ではこの逆の傾向にあった. これらの結果,環境ストレスが穏やかな環境下では,高い通導性能をもった材で,幅広い材容積密度の樹種から構成される森林構造になっていることが示唆される.


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