第53回日本生態学会 ・自由集会・ 木材解剖特性からみた熱帯樹木の生態2. 生育環境によって樹高と木部構造はどのように異なるか

タイ熱帯季節林の樹木
-乾燥落葉林の樹木のフェノロジーと水利用-

京大・農・森林利用 三浦優太

はじめに
熱帯季節林では多くの樹種において乾季に落葉が起こり,雨季の始まる前に開葉や開花が起こることが報告されている.熱帯季節林は雨のほとんど降らない明確な乾季があることで特徴付けられ,そこに生育する樹木が乾季の厳しい水分環境下で開葉するためには,水が重要な役割を果たしているはずである.そこで本研究では根の深さ,樹液流,材,葉の特性など樹木の水分生理がフェノロジーとどのように関連しているかについて明らかにすることを目的とした.

調査地及び調査方法
タイ国ナコンラチャシマ県サケラート研究ステーションの落葉フタバガキ林(熱帯季節林)に生育する10樹種 (Dipterocarpus intricatus, Shorea obtusa, S. siamensis, S. roxburghii, Pterocarpus macrocarpus, Vitex peduncularis, Dalbergia oliveri, Gardenia sootepensis, Beilschmiedia roxburghiana, Parinari anamense)を主な対象樹種とした.フェノロジー観察は乾季である2004年11月から2005年3月まで行なった.樹液流の測定はTDP法(Dynamax TDP-30)により乾季,雨季にそれぞれ行なった.雨季には陽葉と木片を採取しLMA,解剖学的特性,材密度,含水率,道管内腔面積,道管密度を測定した.また木片から抽出した水の水素同位体比を測定し,根の深さの推定を行った.あわせて,乾季と雨季に土壌を採取し水ポテンシャル,含水率を求めた.

結果と考察
観察した落葉樹種の全てが乾季に落葉・開葉し,樹種によっては開花・結実したものも存在した.フェノロジーは樹種間で大きな差異が見られ,同樹種間でも落葉,開葉の時期が異なった.フェノロジーと根の深さ,樹液流特性に基づいて,調査樹種を以下の4つタイプに分類することができた.1)常緑・深根性タイプ: B. roxburghiana, P. anamense,2)落葉・深根性タイプ: D. oliveri, P. macrocarpus,3)落葉・浅根性タイプ: G. sootepensis, V. peduncularis,4)低蒸散タイプ: D. intricatus, S. obtusa, S. siamensis, S. roxburghii 深根性の樹種は乾季にも安定して水が供給でき,エンボリズムの危険性も低いと考えられ,水輸送効率の良い太い道管を持つことができると考えられる.常緑樹種はともに深根性であったが,P. anamenseが太い道管を持つのに対し,B. roxburghianaは道管径の小さい複合道管を多く持っていた。落葉・深根性で太い道管を持つP. macrocarpusは雨季に活発な樹液流が観測された.一方,浅根性の樹種はエンボリズムの危険性が少ないと考えられる細い道管を密に持っていた.落葉・浅根性のG. sootepensisは乾季にも樹液流速はほとんど減少しなかった。また,降雨に反応し,乾季に2回の開花を見せた.低蒸散タイプに分類されたフタバガキ科樹種はどれも比較的太い道管を持ち,その中でもやや根が浅いと考えられるD. intricatus S. siamensisは落葉,開花ともに他の樹種より早く起こった.一方,フタバガキ科樹種で一番根が深いと推測されたS. roxburghiiは落葉期間が短かった.フェノロジーと樹木の根の深さ,樹液流,材,葉の特性など樹木の水分生理は密接に関係しており,乾燥に対する適応戦略は樹種により様々であった.しかし,観察した落葉樹種の全てが乾季に開葉を行った.これは落葉フタバガキ林の落葉樹種が,光合成に適した短い雨季に最大限の生産活動を行うために有効だと考えられる.


Fig. 1 乾季のフェノロジーと降水量VPDの変動.


Fig. 2 材の顕微鏡写真.(a) P. anamense, (b) P. macrocarpus, (c) G. sootepensis, (d) D. intricatus


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