第53回日本生態学会 ・自由集会・ 木材解剖特性からみた熱帯樹木の生態2. 生育環境によって樹高と木部構造はどのように異なるか

キナバル山の樹木
- 標高・土壌の環境傾度による樹高と木部構造の変化 -

清野達之(京大・生態研セ)

東南アジア最高峰のキナバル山(標高4101m)では,標高(気温)と土壌基質(堆積岩 vs 蛇紋岩)の組合せを活かした環境傾度によって,熱帯林生態系の種種多様性と生態系機能の研究を京大・生態研の北山兼弘教授の研究グループが進めている.今回はこの標高と基質の組合せを利用した環境傾度にそって,森林の林冠高が変化するメカニズムを,材の生態解剖特性から解明する試みを紹介したい.

標高間の違い
キナバル山の堆積岩起源の低地林(標高約600 m)と山地林(標高約 1600 m)の林冠構成種(低地林11種,山地林12種)を対象とし,材の容積密度,木部構造として,道管1個あたりの平均内腔面積,単位面積あたりの道管分布数,単位面積あたりの道管の占有率を測定した.その結果,低地林と山地林の標高間の比較では,材の容積密度は低地林で低く,山地林で高い傾向にあった.低地林では高い樹高にも関わらず,多様な材密度を持つ樹種で林冠が構成されていることが分かった.一方,山地林では材密度頻度分布が高い値に収斂した傾向がみられた.この関係は,これまでキナバル山で報告されている種多様性の変化と対応しており,種と材容積密度の多様性が結びついていることが分かった.材の解剖特性は,低地林の林冠を構成する樹種は単位面積あたり低い道管密度ではあるが大きい径の道管配置をしており,山地林ではこの逆の傾向にあった.これらの結果,環境ストレスが穏やかな環境下では,高い通導性能をもった材で,幅広い材容積密度の樹種から構成される森林構造になっていることが示唆される.

土壌基質間の違い
キナバル山の標高約1600 mの山地林で,堆積岩の森林と蛇紋岩の森林を選択し,材の容積密度,木部構造として,道管1個あたりの平均内腔面積,単位面積あたりの道管分布数,単位面積あたりの道管の占有率を測定した.その結果,堆積岩と蛇紋岩の基質の比較では,材の容積密度は両サイドともに高い値に収斂しており,材の容積密度を両サイト間で比較すると堆積岩で低く,蛇紋岩で高い傾向にあった.それにも関わらず,林冠高は堆積岩で高く,蛇紋岩で低くなっていた.材の解剖特性では,堆積岩地で道管内腔面積割合が高い傾向がみられ,蛇紋岩では低くなっていた.また,道管内腔面積割合は堆積岩で高く,蛇紋岩地で低くなっていた.これは蛇紋岩では堆積岩と比較して通導性が劣ることを意味している.これらの結果,貧栄養という環境ストレスがかかる蛇紋岩地では,乾燥地に生育する樹木の性質と酷似した傾向がみられた.土壌の栄養塩の違いが生育する樹木の水分生理特性に影響を及ぼし,そのことが種の多様性や分布に影響を与えている可能性が示唆される.

今回の発表から,生育する環境の違いが樹木の水分生理特性に影響を及ぼし,そのことが種の多様性や分布に影響を与えるメカニズム解明に,材の生態機能特性からの視点の有効性を評価したい.


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