第55回日本生態学会 企画集会 (T19)材の解剖特性と樹木の水利用

高CO2濃度環境下で生育させた落葉広葉樹の解剖特性

渡邊陽子(北大・北方生物圏フィールド科学セ)

産業革命以来、人為的活動により大気中CO2濃度が短期間に急上昇し、今世紀末には現在のおよそ2倍の濃度(720ppm)になることが予想されている。高CO2濃度環境下で森林動態がどのように変化するのか予測を行なうために、これまで高CO2濃度環境下で生育させた森林樹木の生理的反応が調べられてきた。その結果、個葉レベルでは光合成能の一時的な増加とその後のダウンレギュレーション、気孔コンダクタンス及び蒸散の低下、水利用効率の増加が、個体レベルではroot:shoot比の増加、などが報告されてきた。これらの生理的な変化により木部構造、特に広葉樹の場合、通道組織である道管のサイズや数が変化すると考えられるが、木部構造の変化については依然知見が少ない。
高CO2濃度環境下における広葉樹の木部構造の変化を明らかにするために、北海道大学北方生物圏フィールド科学センター札幌実験苗畑に設置された開放系大気CO2増加 (FACE, Free Air CO2 enrichment; CO2濃度500ppm, 2040年頃を想定)および対照区(370ppm)で生育させた落葉広葉樹4種(ミズナラ、ハリギリ、ウダイカンバ、イタヤカエデ)を用い、木部構造、特に道管(環孔材では早材部、散孔材では年輪中央部)に着目して分析を行なった。
その結果、ミズナラでは、総道管面積、平均道管面積ともに変化しなかった。一方、ハリギリはFACEで総道管面積、平均道管面積ともに増加傾向がみられた。また、ミズナラ、ハリギリともに、高CO2処理により、より大きいサイズの道管の出現がみられた。ウダイカンバ、イタヤカエデでは道管サイズ、数ともにあまり変化しなかった。高CO2濃度環境下では、ミズナラとハリギリの場合、顕著ではないものの、道管のサイズが変化する、つまり木部構造が変化する可能性が示唆された。


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