第56回日本生態学会 自由集会 (W15)樹木は水をどのように輸送しているか -樹種,木部構造,季節変化-

広葉樹の樹液流速 −樹種の違いと季節変化−

籠谷泰行・服部和佐・中畑里枝子・山尾 敬・福井佑介・宮本洋司・荻野和彦(滋賀県立大学・環境科学部・環境生態学科)

林木による蒸散は森林の水源涵養機能に関わる重要な過程である。林木の蒸散速度を求めるには樹液流速度を測定することが有効であり、それにより蒸散速度の日変動や季節変動を明らかにしていくことができる。一方、さまざまな森林植生の中で、天然生の広葉樹林は針葉樹人工林とは異なり、多様な樹種により構成されている。このような森林における蒸散過程の詳細な理解のためには、これら樹種ごとの特徴を明らかにしていくことが必要である。しかし、広葉樹種の樹液流速度の測定例は少なく、こういった比較ができる状況にはない。そこで、本研究では、日本の温帯広葉樹林における主要樹種数種の樹液流速度を、長期間継続して測定し、それら各樹種の樹液流速度の日、季節、年々変動を示すとともに、気象条件や土壌含水率との関係を明らかにすることを目的とした。
 滋賀県高島市朽木麻生のコナラ林と長浜市金糞岳のブナ林に設置された調査地において測定は行われた。各調査地では毎年の毎木調査によって、樹種組成とその動態が観測されている。樹液流速度の測定は、コナラ林でコナラ(2001年から測定開始)、ソヨゴ(2003年〜)、リョウブ(2008年〜)、ネジキ(2008年〜)を、またブナ林ではブナ、ミズナラ(いずれも2003年から測定開始)を選び、それぞれ1個体ずつを対象木として、幹熱収支法により行った。また、調査地に近接する開けた場所に設置された気象観測装置(LI-COR LI-1000、1400)により、放射熱量、気温、相対湿度、降水量を測定した。さらに、土壌含水率(深さ10〜40 cm)をTDRまたはADR測定器により、コナラ、ソヨゴ、ブナ、ミズナラの根元で連続測定した。
<  単位幹断面積あたりで求めた樹液流速度のこれまでの最大値は、コナラ、ソヨゴ、ブナ、ミズナラ、リョウブ、ネジキの順にそれぞれ55、27、17、67、9、18 cm/hrであった。各樹種の樹液流速度はそれらを上限として変動した。以下、日、季節、年々変動に分けてまとめる。
(1)日変動:とくに晴天時においては樹液流速度は朝から昼にかけて上昇し、夕方には低下する明瞭な変動パターンを示した。これは放射熱量や大気飽差の変動とよく一致した。この変動パターンに樹種間での明らかな差異は認められなかった。
(2)季節変動:日積算放射熱量は6月半ばに、また気温と大気飽差は8月初旬にそれぞれ最高となった。これに対して日最大樹液流速度はコナラ、ソヨゴ、ブナ、ミズナラでそれぞれおおよそ6月中旬、8月上旬、6月下旬、7月中旬に最高に達した。落葉樹のコナラ、ブナ、ミズナラでは、樹液流速度の春における上昇と秋の低下のタイミングは、それぞれの樹種の葉フェノロジーとよく一致していた。冬には樹液流は検出されなかった。これに対して、常緑樹のソヨゴでは、年間を通じて樹液流が観測された。
(3)年々変動:データがまだ十分ではなく、それぞれの樹種ごとの樹液流速度の年々変動を詳しく議論できる段階には達していない。ただ、樹種に関係なく、一般に気象条件の年ごとの変動の影響は認められた。


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