第56回日本生態学会 自由集会 (W15)樹木は水をどのように輸送しているか -樹種,木部構造,季節変化-

コナラとシラカンバの水分通導度の損失と回復

○小笠真由美・三木直子(岡大院・環境)

はじめに
近年、樹木の通水機能の損失と回復の過程について研究が進められているが(Hacke & Sperry 2003, Salleo et al. 2004)、その定量的な評価や、道管の齢やサイズといった木部の構造的特徴と水分通導性の関係についてはほとんど明らかにされていない。本研究では、管孔性の異なる樹木について@乾燥に対する、また、A再潅水による乾燥の解除に対する通水機能の応答およびそれを反映する木部の構造について測定を行った。

材料と方法
環孔材樹種のコナラと散孔材樹種のシラカンバを実験に用いた。植物体の主軸より切り出した当年生木部および1年生木部を含む1年生の切片を用い、乾燥の進行に対する通水機能の応答(木部の水ポテンシャルΨxylemに対する水分通導度の損失率PLCの関係)とその時の木部構造を測定した(@)。乾燥させた個体への再潅水は、水分通導度の約半分を失ったと思われる時点で行い、潅水後1時間および24時間が経過したのち、通水機能(PLCおよびΨxylem)および木部構造の測定を行った(A)。

結果
@コナラにおいて、乾燥処理前からすでにPLCは50%近くの値を示しており、Ψxylemの低下に対するPLCの顕著な増加は見られなかった。シラカンバでは、Ψxylemが-1.5MPaに達するまではPLCは低く、それを越えると急激にPLCが増加した。木部構造について、コナラの当年生木部の道管(5�95μm)は乾燥処理を加えると50μm以上の大径の道管が閉塞したのに対し、1年生木部の道管(5�60μm)は乾燥処理前からほとんど通水していなかった。シラカンバの当年生木部の道管(5�50μm)は、乾燥が進むと大径の道管ほど閉塞し、1年生木部の道管(5�45μm)はどのサイズの道管も閉塞した。
A再潅水を行うと、コナラはPLCの低下を示さなかったが、Ψxylemは潅水後12時間が経過すると完全に回復した。シラカンバにおいては、再潅水によるPLCおよびΨxylemに回復の傾向が認められた。木部構造について、コナラは乾燥時に閉塞した極めて大きな径の道管でわずかに再び通水の傾向が認められたが、1年生木部の道管はほとんど閉塞したままであった。シラカンバでは当年生および1年生の木部ともに、どのサイズの道管においても高い割合で再び通水が認められた。

実測の水分通導度(measured Ks)と、機能している道管についてハーゲン・ポアズイユの法則から求めた理論的な水分通導度(theoretical Ks)の関係において、コナラはキャビテーション解消後にmeasured Ksがtheoretical Ksを有意に下回ったのに対し、シラカンバはキャビテーションの解消の前後に関わらずmeasured Ksとtheoretical Ksは同程度の値を示した。

考察
環孔材のコナラでは、大きく通水に寄与している当年生木部の再充填の能力が比較的低いが、小径だけでなく大径の道管を有することにより高い水分通導度を維持するとともに、乾燥に対する通水機能の急激な損失を防いでいることが示唆された。一方、散孔材のシラカンバでは、どの齢の木部も通水に寄与しているが、道管サイズがコナラと比較して均一であることにより乾燥の進行による通水機能の急激な損失が起こりやすいことが考えられた。しかし、乾燥が解除されると閉塞した道管が高い割合で再充填できるという高い再充填の能力を有することにより、通水機能が維持されていることが示唆された。


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