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研究における野外調査の心構え

2023-02-24:清野達之

1.はじめに
これは研究指導を行なっている院生・卒研生にむけて野外調査の心構えを記したものです. 調査の安全に関わることのなので,あえて事うるさく書いています.と,いうのも,野外調査中の事故がこれまで結構多く報告されています.中には私の周りでも起きてしまったものもあります.事故の結果,残念ながらもう二度と会うことのできない方も中にはいます.私はもう二度とこのような思いをしたくありませんし,思いをさせたくもありません.そのため,あえて事細かく繰り返して書いていますが,心して読んで肝に銘じて欲しいと思っています.また,自分への戒めも兼ねています.

2.調査の前に
調査の前にすべきことは

  1. 日程の確保と決定
  2. その期間内ですべき調査内容の決定
  3. 必要な道具の手配
  4. 補佐が必要な場合は人員の確保
  5. 「野外調査実行予定表」の提出と確認
です.これらは指導教員からの指示を待っているのでなく,あなたが主体的に動かなくてはいけません.そうはいっても最初はどうしたら良いのかよく分からないでしょう.最初のうちは私の方からあれこれ指示や各種手配などを行ないますが,そのノウハウをしっかりと覚えてもらいます.そしてそれらを体得したと思われる段階以降は,自分から主体的に適宜各種行なってもらいます.それらが決まった時点で私に連絡をして,諸事詰める流れをとってもらいます.

野外調査を行なう前に「野外調査実行予定表」に必要事項を記入して,調査予定日の前日の指導教員(清野)がちゃんと確認できる時間までに直接かメイルの添付などで渡し,確認と許可を得てから調査に出かけましょう.以上は安全管理上,尊守してもらいます.この手続を踏まない調査は一切認めません.また,他の人の手伝いに出かける時も同様です.

3.予定の組み方
  1. 日程の確保と決定:日程に無理がないかを確認します.雨天など天候が変わりやすい時期は予備日を含めた日程を組んでください.前日は充分な睡眠時間と休養をとること.
    予定している期間の天気をちゃんと確認しましょう.テレビやラジオの天気予報やインターネットでも確認できます.
    日本気象協会 tenki.jp
    ヤフーの天気予報
    天気予報も降水確率だけを確認するのではなく,気圧配置などもちゃんとみておきましょう.

  2. その期間内ですべき調査内容の決定:調査日程期間でのタイムスケジュールを組んでください.そうすれば一日でどこまでなにをするのか明確な目標ができます.

  3. 必要な道具の手配:調査内容によってフィールドに持っていく道具や装備は異なります.今回の調査では何をするのかをしっかり確認して,必要な道具を漏れなく確保します.極端ですが,慣れないうちは必要な道具を入れたかを声に出し,指差確認するとよいでしょう.
    毎木調査:準備と実践
    道具や機材は予備も含めた装備を行なってください. 

  4. レインコートやザックカバー,テント泊の場合のシュラフやテントは安物ではなく,ちゃんとした良いものにしましょう.疲労度が全く違いますし,安物は全く使い物にならない上に,簡単に破れたりして直ぐにダメになります.レインコートはゴアテックス素材などがよいでしょう.これらは自分自身を守るものです.値段は多少しますが,値段なりの価値はあります.
    野外調査では自分を濡らさないようにしましょう.雨や汗で濡れることによって体温が奪われてしまい,それは疲労へと繋がります.シュラフやテントなども然りです.自分の体温を不必要に逃さないモノが必要です.SAS (Special Air Service; イギリス陸軍特殊空挺部隊)でも,この点は徹底させているそうです.

  5. 補佐が必要な場合は人員の確保:調査内容に応じて調査のお手伝いが必要な場合もあるでしょう.研究室の仲間やその他頼めそうな方を確保してください.補佐の方にあなたは調査の何をお願いするのかをきちんと説明しなくてはいけません.同時に装備についても念を押すこともお忘れなく(特に雨具や服装など).
これらがちゃんと決まったら,「野外調査実行予定表」に必要事項を記入して,指導教員に確認と許可を得てください.同時に研究室のボードや自分の机の上に「野外調査実行予定表」を置いて,まわりにも充分告知しておきましょう.知っているのは自分だけ,というのは絶対に避けてください.くどいですが,これは尊守してもらいます.

4.調査中
  1. 天気の様子をみて適宜調査を進めてください.作業の指示はあなたがするでのす.雨が降りそうだったり,雷が鳴りそうだったら早めに切り上げるなど,賢明な判断をしてください.山の天気は急変します.また,調査の補佐がいる場合はその方(々)の様子もみましょう.自分も含め,疲労がみえはじめたら,調査を終える時間を早めるなどの対応を行なってください.調査をしているのは,あなただけではありません.根性路線の野外調査は厳禁です

  2. 調査だけではなく,移動のための時間や体力にも充分配慮しましょう.自分の体力を過信しないことです.
     
  3. 調査を終えたら,無事の帰還を指導教員もしくは関係者に確実に連絡してください.何も連絡がない場合は捜索を行なうこともあります.また,無事の帰還の報は周囲に安心をもたらします.大人としての対応をお願いします.
5.調査後
  1. 調査道具の確認をします.調査道具は紛失することなく持ち帰ってきたでしょうか,破損などはないでしょうか.もしあれば,直ちに報告するなり修理するなり,迅速な対応が望まれます.また,使った道具が雨や露などで濡れている場合は,直ちに水分をふき取り,乾燥させます.刃物にヤニがついた場合はヤニ取り剤でふき取りましょう.成長錐を使った場合,使用後は樹液で濡れています.ミシン油などをさして,樹液やヤニなどをふき取りましょう.プロは道具を大切にします.

  2. 明日も調査があるのなら,使う道具の確認や補充などを済ませておきましょう.

  3. 明日も調査があるのなら,明日の天気を確認しましょう.予定している内容をこなせそうか,などの確認をしておきましょう.

  4. データが書かれたシートや野帳が複写できる環境にいるのなら,直ちに複写をとっておきましょう.これらを紛失してしまったら,今日した調査の意味はゼロになります.コンピュータが使える環境にいるのなら,データを直ちにコンピュータに入力し,測定におかしなことがないかを出来るだけ早くに確認しておきましょう.もし,おかしなことや漏れなどがあれば,明日もしくは次回に確認できそうかを決めておきましょう.強調したいのは,データの値が本当に正しいか確認し,そして原本のバックアップを確実にとることです.

    私の場合:調査を終えて研究室や宿舎に戻ったら出来るだけ早くデータシートの複写をとる.オリジナルと複写は別々に保管する.可能であればその日のうちにコンピュータへデータの入力を行なう.後で…はいつまでたってもデータ入力をしない.そうすることによって,エラーや測定漏れが早い段階で見つかる場合がある.データ・ファイルも自分のPCとUSBメモリにバックアップを取り,別々に保管する.インターネット環境下であれば,クラウドサービスなどを活用して,データの分散保存を行なう.

5.その他と野外調査の安全に関して
  1. 非常時の連絡用に携帯電話は有用です.会社によってカバーしているエリアが違うので,自分の調査地がその範囲に含まれているかを確認しておくとよいでしょう.常に携帯電話の電源を入れていると,カバーしていないところなどでは電池の消耗が激しくなるので(中継アンテナを探すため),いざというときに使い物にならないことがあります.調査前に充電しておき,使わないときはオフにしておいた方が確実でしょう.携帯バッテリーも有用です.

  2. 野外調査は安全第一です.くどいですが,安全管理には充分留意してください.そして,自分と自分のまわりの安全は自分自身で守るとい認識を強くもって野外調査を行なってください.

  3. 野外調査の安全について,2019年7月の日本生態学会誌別冊で,フィールドにおける安全管理マニュアルが刊行されました.フィールドシーズンの前に,年に一度は熟読しておくことを強く勧めます.


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