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植物のシュート成長と地上部構造の動態
2006-09-08

高等植物,特に木本種を主な対象として,その成長様式を光合成を行ない同化産物の生産過程を担っている枝先のシュートの成長パターンと,その積み重ねである樹形の構築過程に視点をおいた解析を行なっています.枝の伸び方の面白さと,シュートや個体全体の形態的な特性を探ることが興味の中心です.樹形と地上部構造の解明では,樹高の決定要因を材の支持と通道機能に着目した研究から進めています.主に枝先から樹までの視点です.
  1. 落葉樹種コシアブラのシュート成長と樹形動態
  2. 落葉広葉樹稚樹の樹冠構造の可塑性と光環境への応答
  3. 展葉期間の違いによる林床草本の地上部構造と相対成長関係
  4. 樹高と材解剖特性の変化の関係

落葉樹種コシアブラのシュート成長と樹形動態

私のこの分野の研究は,ユニークなシュート伸長様式を持ち,日本の温帯林を中心に分布するウコギ科の亜高木落葉広葉樹であるコシアブラの枝成長パタンと樹形の構築過程の調査からスタートしました.この研究をなんとか博士論文としてまとめ,学位を取得しました.下記は博士論文の要旨です.コシアブラとの比較のため,ハリギリやタラノキでも同じ測定を行なっていましたが,タラノキは測定を開始して間もなく,恐らくは山菜として刈り取られてしまったのでしょうか,標識した個体が総て消失し,データを取り続けることができませんでした.コシアブラと比較すると,他のウコギ科ではシュート成長パタンなどはどうなっているのだろうかという疑問と興味が湧き,日本に自生するウコギ科樹種間での成長特性とシュート構造の比較を微速前進ながら行なっています.夢はでっかくといいたいところですが,まずは日本から.

ウコギ科の落葉広葉樹であるコシアブラの当年シュート成長は,春先に一斉に葉を展開させ,約2 cm 程度のみ伸長するシュート(停滞成長シュート;S-phase) と,30 cm 以上伸長し,夏まで伸長成長と展葉を続けるシュート(伸長成長シュート;E-phase) が存在する. コシアブラの伸長成長はこの二つの伸長成長のパターンが,一定の間隔をもって交互に同じ成長の軸上で進行する.特に若齢個体はほとんど分枝せず,1本の幹のみ伸長していくので,当年成長はS-phaseかE-phaseシュートのいずれか一方によっている.コシアブラのシュートの成長特性とその意義について,分枝前,あるいはほとんど分枝をしていない稚樹を材料に調査した.その結果,S-phaseシュートとE-phaseシュートは,形態的にも成長の挙動においても大きく異なっていた.S-phaseシュートは,茎より葉に多くの資源配分を行なっているのに対して,E-phaseシュートは茎への資源配分が高くなっていた.S-phaseシュートは5月下旬に伸長と展葉を終えているのに対し,E-phaseシュートは5月下旬に一度展葉した後,8月中旬まで伸長成長と展葉を行なっていた.光環境の違いを考慮して,E-phaseとS-phaseの頻度を閉鎖林冠下とギャップで比較した結果,閉鎖林冠下ではよりS-phaseを繰り返し,ギャップではE-phaseを繰り返す頻度が高くなっていた.したがってS-phase成長時は,伸長成長を制限し,将来の成長に備えている時期であるのに対し,E-phase成長時は上方のより良い光環境への伸長を行なう時期であると考えた.
次に実生から成木までの個体成長の過程における樹形の発達段階を,シュート集団間の関係に着目し,分枝様式と分枝した枝のシュート成長から解析した.樹高1m以下の実生は分枝をせず,間欠的なシュート成長を示さなかった.樹高1-2m程の小さな稚樹でも未分枝の個体がほとんどであるが,幹では間欠的なシュート成長を示した.樹高2m以上の稚樹から分枝を始めるが,そのほとんどがS-phaseのみからなる枝であった.樹高4m以上の成木からは,枝でも間欠的なシュート成長を示した.分枝をする個体の樹冠内では,E-phase成長の同調性が樹冠内で確認され,シュート集団間の伸長成長の切り替えが示唆された.分枝によって,個体の葉群構造が分枝をしない傘型から細長い筒型に変化し,成長段階に応じた効率的な光獲得方法をとっていることがわかった.これらの成長パターンの変化は,個体のサイズによって二つのシュート成長のフェイズの組み合わせを変えることによって,林冠下での生存を可能にしていく適応であると結論した.



落葉広葉樹稚樹の樹冠構造の可塑性と光環境への応答

次期の林冠木を担う林床での稚樹は,林冠ギャップなどによる光環境の変化によって,どのように樹冠構造や同化産物配分を変化させることで対応しているのでしょうか.温帯落葉樹林を構成する複数種の稚樹で,林冠ギャップと閉鎖林冠下での樹冠構造と同化産物配分の違いを検証しました.側方成長を優先する樹形タイプは,光環境の改善によって,垂直的な成長が促進されることによる支持器官への配分を高め,逆に垂直成長を優先する樹形タイプでは,光環境の改善によって,同化器官への配分が高まることが分かりました.これは現在・信州大学の高橋耕一さんとの共同研究で,主に垂直成長を優先する樹形タイプを担当しました.ハリギリの稚樹の刈り取りをして,ひっかき傷だらけになったり,乾燥重量測定のため幹や枝を入れる袋をぼろぼろにならないように苦心した思い出があります(ハリギリ=針桐;稚樹や若い枝にはトゲがある).

幹から直接でた枝を一次枝と定義して,上の研究と同じ視点で,シラカンバ稚樹の樹冠内における一次枝の振る舞いを調査しました.これは現在・千葉大学の梅木清さんとの共同研究で,刈り取られた個体の一次枝の年齢や娘シュート数,枝配置のマッピングの測定を担当しました.シラカンバは散孔材で年輪が確認しづらく,日々心眼勝負をしていた思い出があります.


展葉期間の違いによる林床草本の地上部構造と相対成長関係

木本種の地上部構造の解析と同じ視点で,光資源が非常に乏しい林床で生育している林床草本の生き様を調べています. やはり「形」と「伸び方」に着目した研究を行なっています.主に葉と茎などの相対成長関係の解析から,林床草本の多様性と生活史シンドロームの抽出に取りかかっています.対象は温帯落葉広葉樹林と熱帯山地林の林床で優占する数種の草本です.

温帯落葉広葉樹林では,林冠木の展葉によって林床に届く光が変化します.草丈や葉の展葉時期は種によって微妙に異なるのですが,相対成長関係は基本的に大きな種間差が少なく,葉に多くを投資する傾向が認められました.また,種によっては相対成長関係の季節的な変化がまとまっているものとそうではないものが見られました.展葉期間が影響しているようです.

インドネシア・ジャワ島のハリムン山の熱帯山地林では,常緑樹によって林冠が構成されるため,林冠ギャップなどが出来ないかぎり,恒常的に薄暗い林床です.林床草本は株状にたくさんの葉をつけ,長い期間葉を着けているようです.林床の光環境は種によって変わりはみられませんでしたが,葉の回転時間の違いによって,地上部構造や相対成長関係に変化がみられるだろうか,ということを解析している最中です(…すみません).もう少し詳しい話は後日….

これは大学院の指導教官だった甲山隆司さんの「草でも(形の仕事を)やってみない?」という話から始めた研究です.なるほど確かに樹とは違った面白さがあります.林床草本の地上部構造の解明というテーマは,まだまだ面白そうなことができそうな感じで,個人的にはもう少し発展させたいテーマです.樹ばかり扱っている私にしては,珍しい草の研究です.


樹高と材解剖特性の変化の関係

2001年12月には,ハワイ諸島の熱帯林調査に参加する機会を得ました.ハワイ諸島の熱帯林は,ボルネオの熱帯林と同じような気候条件にあるのですが,火山活動に加え海洋島という生物地理学な条件が加わり,極めて少数の種によって森林が構成されています.また,火山活動にともなう溶岩流によって,近接する地域でも土壌年代が異なり,土壌の栄養塩状態が年代ごとに変化しています.ハワイ諸島の熱帯林を構成するのはハワイフトモモ (Metrosideros polymorpha)で,基質年代が若いところから古いところになるにつれ(=土壌の栄養塩状態),林冠高が低くから高く変化します.この違いが何によって説明できるかという疑問に,材構造の変化に着目しました.支持機能と水分輸送機能の両方から,樹高と材解剖特性の変化の関係を明らかにすることが興味です.ハワイフトモモの研究では,基質年代によって材密度は変化しないのですが,道管の密度や径が変化しており,どうも水輸送機能が変化しているのでは,という結果が得られました.この研究はポスドク時のボスである北山兼弘さんの調査にお供した時に行なった研究です.北山さんにサンプリングを手伝っていただいた時に,その目の前で成長錘の受け皿の部分を折っていまい,大量の冷や汗を流した思い出があります.

現在はボルネオの熱帯林で,多種比較と標高間の違いを視野に入れ,このテーマに取り組んでいます.最近の活動はこちら(生態学会自由集会のペイジ・その1)こちら(生態学会自由集会のペイジ・その2)で詳しく紹介しています.


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