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論文紹介・その2

10 February 2000

闇セミナー:1999年の隔週木曜日17時から北大・地環研で行なっていた論文紹介のセミナー.アルコールを飲みながらのようなフランクな雰囲気で,最近の生態学のトピックを学ぼうという趣旨.名前の由来は,「アルコールを飲みながら」という点で,少し後ろめたい気持ちがするところから(セミナー幹事談).


闇セミナー
10 February 2000 担当:清野達之

Corner's rules revisited: ontogenetic and ineterspecific patterns in leaf-stem allometry.

Brouat, C., Gibernau, M., Amsellem, L. & McKey, D. 1998. New Phytologist 139: 459-470.


はじめに材料と方法結果まとめむすび
脚注


はじめに
・この論文の目的→コーナーの法則の再検証.
・コーナーの法則について
Corner (1949):葉の表面積と茎直径の関係を記載.
1)葉の形態は植物の軸が大きくなるに従って複雑になる.
2)枝と葉は分枝頻度が高くなるに従って小さくなる.
Halle et al. (1978):改めて紹介.成長段階に応じた変化について詳細に報告.
茎の機能;維管束の供給と機械的な支持の意義.
White (1983a,b):温帯林の樹種でコーナーの法則を検証.
→問題点 1)等大 (isometric)か相対的 (allometric)な関係かが明瞭でない.
2)シュート全体の葉と枝の断面積の関係をみるべき.
・本論文の目的
1) Whiteのデータから,コーナーの法則の再検証.
2) 4樹種を用いて,成長段階の違いによる葉と茎の相対成長関係の量的解析.
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材料と方法
葉と茎のサイズの相互関係のモデリング
Y=b Xalog Y = log b + a log X
傾きの値で,X Y の関係が等大かそうでないかが分かる.
(a = 1のとき,成長段階を通して変化なし,もしくは種間で形態の差異なし)

種間の相対成長関係
・White (1983a,b)のデータを再解析(合計69樹種).
1) White (1983a,b)の解析方法そのまま.
→葉の平均葉面積とそれに関係している節間の平均断面積の関係.
2) 当年生シュートによってできた葉の合計表面積と当年生シュートの断面積の関係.
・種間比較〜各分類群(落葉被子植物・常緑被子植物・裸子植物)での比較.

成長段階ごとの相対成長
・4樹種を選び,葉を「適当」に採取し,葉の表面積と茎の直径を,各成長段階ごとに測定.
Leonardoxa africana:熱帯アフリカの常緑樹.単葉.
Cerisis siliquastrum:温帯のマメ科の落葉樹.羽状複葉.
Macaranga gigantea:東南アジア熱帯のトウダイグサ科の常緑樹.単葉.
Quercus pubescens:温帯のブナ科の落葉樹.単葉.
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結果
種間の相対成長
・一枚一枚の葉の大きさと茎直径の関係
分類グループ間で,直線的な関係で,傾きはほぼ1(図2と表1).
グループ間での関係;等大(葉の大きさと茎直径は一定). 針葉樹;相対的.しかし,これは Tsugaによるもの.Tsugaを外すと等大(表1).
・表1;分類グループ別にみた関係.すべての分類群で等大→系統的な制約からは独立.
・図2の直線関係;総ての分類群で傾きに有意な差はないが,切片はそれぞれ異なる.
・一枚の葉を考慮せずに,当年枝についている総ての葉でみると(図3),裸子植物(針葉樹)と常緑被 子植物は等大だが,落葉被子植物は相対的.
→傾きは3群で違いはないが,落葉裸子植物の切片は他の2群と異なっていた.
・シュート当たりの葉数の違いは,3群間の枝の大きさの部分的な違いによって説明されるようだ.

成長段階別の相対成長関係
・図4と5:末端の節間の断面積とそこについている葉の表面積は,サイズとともに増加.
・葉と茎の関係;成長段階を通して,(log-logで)直線的な関係(図6,表3).
・成長段階を通して,これらの関係は等大.
・葉と茎の関係;傾きに有意な差はないが,切片はそれぞれ異なる.
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まとめ
・Whiteの結果;当年生シュートの断面積と,その茎についている葉の合計表面積の関係→本質的に等大.
・4樹種の結果からも,上記の関係が等大であることが示された.

・種間と種内の両方で,上記の関係は本質的に同じ→葉と茎の特性の進化上における成長の束縛の存在.
・Whiteの葉の表面積と茎断面積の間の関係についての仮説.
→節間(茎)直径が,葉の支持と維管束の供給の必要によって影響されているという特性上の限界(biomechanical 仮説).

・切片の違いの意味;葉の厚さに関係→落葉樹:常緑樹と比べ細い枝(茎).葉の寿命に関係.
これに関して,常緑樹と落葉樹の違いに関する仮説群(以下).
仮説1:短い寿命の葉は,長い寿命の葉より薄い.
仮説2:光合成特性や着葉数の違い.
仮説3:通道組織の効率の違い.
仮説4:常緑樹の枝→非通道組織.
・最終的には,維管束の供給と,葉の支持にこれらの特性が影響されている.

・4樹種間の比較
温帯林のCercisQuercus:材構造の違いか.
熱帯林のLeonardoxa:温帯林の2種よりも,同じ葉の表面積での茎直径が小さい.
葉もこれら2種より薄い.
Macarnaga:温帯林の2種よりも,同じ葉の表面積での茎直径は同じ.
熱帯の常緑樹→温帯のそれとは大きく異なっている.
・葉と茎の関係:葉と茎の形態的な特性によって変化し,葉の寿命や生育地,気候に無関係.
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むすび
・茎断面積とそこについている葉の表面積の関係
→種間と種内の関係における(成長段階)を通した比較でも等大.
・茎と葉の関係:形態的や生態的な特性に依存している.
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脚注

  • Corner (1949)
    Corner, E.J.H. (1949) The Durian theory or the origin of the modern tree. Annals of Botany 13: 367-414.
    この論文の390ページにおける記載.「植物の起源と進化」(E.J.H.コーナー著,八坂書房)の9章にも上記の論文の件がある.→戻る

  • Halle et al (1978)
    Halle, F., Oldeman, R.A.A. & Tomlinson, P.B. (1978) Tropical trees and forests: an architectural analysis. Springer-Verlag, Berlin.
    本書の81-83ページで,コーナーの法則についての記載がある.維管束の供給や機械的な支持に関する件は,それぞれ298ページと309ページの記載を参照.→戻る

  • White (1983a,b)
    White (1983a) Corner's rules in eastern deciduous trees: allometry and its implications for the adaptive architecture of trees. Bulletin of the Torrey Botanical Club 110: 203-212.
    White (1983b) Evidence that temperate East North American evergreen woody plants follow Corner's rules. New Phytologist 95: 139-145.
    (1983a)の方が落葉広葉樹48種の解析,(1983b)の方が針葉樹も含めた常緑樹21種の解析.→戻る

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