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Nutrient cycling and limitation: Hawai'i as a model system輪読会:2005年1月から京都大学生態学研究センターの有志で行なっていた輪読会.

27 January 2005 担当:清野達之

第六章:ハワイ生態系への栄養塩の加入:経路,割合,制御

前口上
ハワイ生態系を例に,陸上生態系への栄養塩元素の加入の経路と割合の報告.
生物による窒素固定を除いて,栄養塩元素は基本的に母岩由来で生態系へ投与される.ハワイでは生態系の年代(=発達)によって,生物と地学的な相互関係から栄養塩元素が生態系に加入され,循環するのかが異なる. 

1 風化
元素の生態系への加入:岩石の風化から始まる
風化:岩石起源の栄養塩の供給,イオン交換・吸着を介して土壌栄養塩の供給を規定.
一次鉱物→風化→二次鉱物

ハワイでは火山活動による溶岩流の流出

ガラス,かんらん岩,単斜輝石,長石,磁鉄鉱系

ハワイ生態系では長石は2万年くらいでみられなくなり,100万年で非水晶系ミネラ ルが消失.410万年でカオリナイト(粘土鉱物で超微粒子のもの)へ.

1万年くらいから風化が進行し,その後は土壌の劣化が著しい.

1-1概念と定義
風化:生態系への元素の加入
1)一次鉱物における元素はそのままでは生物が利用できない.利用できるために は風化が必要.
2)ハワイの年代傾度の長所は,それぞれの時間での元素の流失を現在の流量と独 立した風化とみなすことができる.第7章で詳説.

一次・二次鉱物を経た風化過程での元素の生態系への加入

1-2アプローチ
土壌の発達に伴う土壌の容積と量の両方の増加もしくは減少.
→これだけでは成分の含有量には対応していない.
→水和反応と有機物の増加,容積の増大:元素の含有量の増加.

土壌中の不動成分の相対量でこれらの流失を計算
Zr(ジルコニウム)を使った例
Nb(ニオブ),Ta(タンタラム):遷移元素で,あまり可動性はない.

6.1;可動元素(カルシウム),小可動元素(リン),不動元素(タンタラム)のニオブ(不動元素)に対する土壌中の含有量.
ニオブの増加:風化と土壌からの流失を反映
カルシウム:急激に減少
リン:比較的ゆっくり流失

6.1;風化による元素の流失の推定式
地表から鉛直方向に向かっての流失分

式6.2;風化による元素の流失量

式6.3;母岩からの流失分

図6.2;基質年代傾度による土壌中のニオブの蓄積量
対数;年代の進行とともに増加
実線;母岩の結合力の程度
土壌プロファイル中の未風化の結合力

土壌プロファイルで風化土壌の厚さ(表土からの深さ)
2100~140万年;わずかに風化,1m.
4100万年以降;5m以下

式6.4;基質年代傾度での風化を経た元素の加入量

1-3風化を経た元素の加入
風化を経て加入される元素の加入率とパタン→玄武岩と元素の流動性に依存

表6.1
可動性(Ca, Mg, K);若い年代では急激に流失.古い年代では未風化のものから徐々 に加入
不動性(P, Al, Fe);二次鉱物として土壌に残存
不動性の元素が古い年代サイトで比較的高い

図6.3;カルシウムとリンの風化による流失と加入分

何故にハワイの年代傾度上の古いサイトでリンの利用と,カルシウムのような可動元素の利用がないところで,純一次生産が制限されるのか?(以降)

2 大気からの加入
2-1 背景
ここでは降水量,乾燥した堆積物,霧,その他の経路(大気中の粉塵,生物による窒素固定)について言及.

図4.3;土壌中の全窒素は9800kg ha-1
生物によると想定される固定された窒素で2035kg ha-1yr-1の源が不明.
窒素固定測定の難しさ;大気からの堆積物が源になることもある.
→要は大気中に含まれる窒素の源が分からない.

2-2方法
降水量と化学成分分析,窒素ガスの測定,霧も考慮.

式6.5;林冠から樹幹から出てくる霧の量

2-3水の加入(300年サイト)
雨から;年平均2500mm
霧から;年平均1200mm

2-4窒素の加入
表6.2;大気中から固定された窒素
雨の中の無機体の窒素;0.86 kg ha-1yr-1
霧の中の無機体の窒素;5.0 kg ha-1yr-1
無機体の窒素を若干含んでいる.火山ガスの影響を受け,時々 極度に高くなる.
雨の中の有機体の窒素;0.15 kg ha-1yr-1
霧の中の有機体の窒素;8.0 kg ha-1yr-1

2-5活火山の影響
火山ガス;二酸化硫黄,硫酸,弗化水素など.海中だと塩酸,塩素.
どのように窒素固定に貢献しているのかは不明

流れたての溶岩流表面で採取した窒素ガス;200 ppb
N2からNOに固定できる高温(1100℃)のところ
NO;植物が利用できるものではなく,時間経過とともに二酸化窒素や硝酸が酸化し て大気に放出される.

霧の中に放出される窒素が高いとき→火山ガスが大気に放出されたものだろう.

火山ガスの影響を受けた霧の中の窒素は2.4 kg N ha-1yr-1
火山性の窒素;地域によっても時間的にも限られている(火山活動によるため).

2-6他の元素の加入
表6.3;大気からのCl, S, Ca, Mg, Na, Kの加入
窒素;85%が霧から
リン,アルミニウム,鉄,弗素;最近の加入.弗素は空気中の火山ガスを知る良い トレイサー
塩素;活火山からのガスに塩酸や塩素が含まれるため
ナトリウム;海中で最も多い元素.雨や霧の中のナトリウムのほとんど海塩性
SO4-S;火山ガスから
マグネシウム;海から
カリウム,カルシウム;非海塩性由来.カリウムは溶岩流によって焼かれた生物に 由来.
窒素,リン;窒素の由来は不明.多分火山由来?

3長距離粉塵の移動
3-1背景
アジアからの粉塵(黄砂)によるハワイ生態系への元素の加入

3-2方法
ハワイの玄武岩と大陸からの粉塵の3つの違い
1)石英は粉塵の鉱物トレイサー
2)ネオジムの二つの同位体143Nd144Ndの相対量は,ハワイ玄武岩で-8%,大陸 ダストで+6%.
3)ユーロピウム属などの微量元素の含有率が両者で異なる

コハラ(ハワイ島北部;15万年)での黄砂加入量;1.25 g m2 yr-1→過小評価気味

3-3元素の加入
黄砂の成分;地表面の成分と似た値になる.

表6.4;黄砂の成分表
図6.4;黄砂の加入量
黄砂を介した元素の加入は少ない;北半球で大きいが,ハワイまで届くものはさほど 多くない.

とはいえ,古い年代のサイトでは無視できぬ量 が供給されている(表6.1).

3-4粉塵のその後
ニオブ;風化の度合いを推定する目安
410万年サイト以内の年代傾度ではニオブの半分は粉塵由来

図6.5;年代傾度毎の石英(鉱物由来)と粉塵由来のニオブの量
150万年サイト以前では黄砂による加入なし→すでに溶脱.
1)粉塵の加入は比較的新しい減少
2)石英は10万年くらいで風化して加入
3)粉塵は同じ時間スケールで溶脱して土壌表面からなくなる.
海洋コアによるとダストは360万年くらいから加入している.
ニオブの不動性.溶脱を考慮すると加入経路が異なる.

推察;ハワイの古環境が今とは違うため,風による溶脱過程に違いが生じている(昔は 乾燥していた?).

とにかく,粉塵由来のニオブは母岩由来のものと比較して僅か.

4生物の窒素固定
4-1背景
窒素固定;窒素制限下での生態系の発達と純一次生産において,窒素の加入はそれらを律則.

生物による窒素固定;高等植物では主にマメ科,藍藻類,一部のバクテリア.
ハワイに固有な植物で窒素固定できるものは少ない.Acasia koa など.ただし,乾燥 しているところのみ.窒素固定できる地衣類(Stereocaulon vulcani) が若い年代サイト の溶岩上でみられる程度.

4-2アプローチ
アセチレン還元活性法で窒素固定酵素の活性をみる.
1)それぞれの基質(リター中の葉や材)の量や場所にどれだけあるのか?
2)アセチレン還元の割合
3)アセチレン還元15Nで標識したN2のアセチレン還元による固定→固定能をみる

4-3固定の割合
Crew et al. (2000)によるハワイフトモモの葉リターでの報告
300年サイトで1.2 kg ha-1 yr-1
2100年サイトで0.6 kg ha-1 yr-1
古いサイトでは0.2 kg ha-1 yr-1以下

Matzek &Vitousek (2003)の地衣類や着生などの活性
堆積している材からは0.1~0.5 kg N ha-1 yr-1
地衣類・着生からは0.1~0.8 kg N ha-1 yr-1
葉のリターでは特別な傾向はない→サイトでの窒素・リン制限が影響

結論;窒素固定能は0.1~1.5 kg N ha-1 yr-1

図6.6;年代傾度による窒素固定能の違い

生物による窒素固定は,年代を通して霧からの窒素加入よりも少ない.

5他の加入
火山灰,局所的な塵芥,海鳥の巣など;よく分からない

6既知の複合加入
生態系の発達と土壌の風化による元素の加入;どこから,どのように,が重要
既述した以外の経路などは?

6-1ストロンチウム同位体:加入経路の直接検討
ストロンチウム;アルカリ性の元素.カルシウムやマグネシウムの循環と類似.
ハワイの生態系では均等に存在
87Sr/86Srの同位体比;母岩では0.7036
海洋エアロゾルでは0.7092
黄砂では0.7140.722(だいたい0.717

図6.7;年間のストロンチウム加入
若い年代サイトでは母岩から,古い年代サイトでは大気から
大気からの加入はおおよそ一定
ストロンチウムの生態系での残存時間は短い:ハワイフトモモの葉の同位体比

6-2塩素と硫酸塩
塩素;海水で最も多い.
図6.8;塩素と硫酸塩の加入量と経路
塩素;大気からがほとんど
硫酸塩;若い年代サイトでは火山,それ以外では大気から.土壌風化からは少.

6-3置換性陽イオン
図6.9;カルシウムとマグネシウムの年代傾度毎の加入量と経路
若いサイトでは土壌風化から.
カルシウム;非海塩性のものがほとんど.

図6.10;ナトリウムとカリウムの年代傾度毎の加入量と経路
ナトリウム;大気から加入
カリウム;若いサイト(300年)では風化からが40%.それ以降は大気由来.古いサ イトは降水涵養性.

6-4シリコンとアルミニウム
図6.11;シリコンとアルミニウムの年代傾度毎の加入量と経路
シリコン;風化由来は急激に減少
アルミニウム;二次鉱物として残る.粉塵が古い年代サイトで重要
両者ともに風化が重要な加入経路

6-5窒素とリン
窒素とリン;生態系の発達を制御する元素.窒素は生物,リンは母岩由来.

図6.12;窒素とリンの年代傾度毎の加入量と経路
窒素;若い年代サイトでは火山噴火によるN2ガスの固定がある.全サイトでの霧の 寄与が大きい.
窒素固定;土壌発達とともに微増.
リン;風化由来がほとんど.生態系の発達とともにリン制限になる.
→量がさほど多くない.黄砂の量もさほど多くない.

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