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Nutrient cycling and limitation: Hawai'i as a model system輪読会:2005年1月から京都大学生態学研究センターの有志で行なっていた輪読会.

27 January 2005 担当:清野達之

第七章:栄養塩の産出:経路,制御,加入-産出の量

前口上
陸上生態系から産出される元素は生物学的に制限されるが,加入した元素のほとんどの帰路は制限されない.

陸上生態系への生物が必要としている元素の加入は,生物が利用できない形,もしくはゆっくりと使える形で供給される.生物が要求している元素で生物が利用する分は僅か.生物が要求していない元素はたくさんある.

溶存有機態窒素(DON)の堆積と溶脱
1) DONは森林からの窒素流失経路が多い
2) 森林で溶脱したDONのほとんどは生物が利用できない
3) DONの流失は窒素制限でも窒素蓄積には充分

DONの流失は溶存無機窒素(DIN)のそれよりも少ない→生態系内での窒素利用の違い

高い分子量のDON は比較的生物学に難分解性.アミノ酸は比較的吸収されやすく,代謝もされている.

ハワイの生態系;窒素利用が異なる
窒素加入と循環;DONは窒素蓄積と窒素制限下で充分であるか

1産出経路
陸上生態系からの元素の流失の主要経路
1)渓流水や地表面を介して出てきた不溶性とコロイド状の溶脱物
2)炭素,窒素,硫黄では大気経由の蒸散,脱窒した流量
3)侵食;重力,風,水による移動

1-1溶脱
溶脱を測定する二つの主要な方法
1)小さな分水界
分水レベルでの水量と成分の管理
長所;流域の水量を直接管理できる
短所;地下部でおきていることに対処していない.ハワイでは水を通さない基盤 岩は稀.
2)浸漏計
決めた土壌深度での土壌溶液の採取ができ,流量が計算できる.

図7.1;陽/陰イオンのバランス
直接測定できない可溶性有機酸の影響
若い年代サイト〜古い年代サイト;陽イオンが減少

溶脱;唯一測定できた経路→後述.

1-2窒素ガス
表7.1;窒素ガスの年代傾度毎の含有量
NO, N2O;硝化・脱窒での副産物.ここでは硝化由来がほとんど(300140万年).

窒素ガス;地域的なものから地球規模なものまで含まれる.
N2O;気候変化と対応
NO ;反応ガス.オゾン層由来

1-3侵食
図6.5→若い年代サイトで黄砂の堆積がみられない.
ハワイ;年代が古くなると,地形的な侵食がみられるようになる(図2.5).
侵食;表土の養分が流失.母岩露出→風化へ
侵食による若返り効果;母岩由来の元素供給

図7.2;ハワイフトモモ葉のストロンチウム同位体比の地形による変化
斜面での岩盤由来の栄養塩加入;大
緩斜面では85%が母岩由来,急斜面では25%.

1-4流失の他経路
火事の影響;影響は大きい.15万年前の最終氷期のときは頻繁だったよう.
他の撹乱(林冠木の一斉枯死,ハリケーンなど)
古い年代のサイトでは背景にこれらを含む.
動物の活動;生態系への栄養塩産出における寄与はよく分からない.

2窒素とリン流失の割合と制御
リンと窒素は様々な経路で流失される.

図7.3;窒素とリンの形態と経路
若い年代のサイト;窒素ガス,NO3-Nの溶脱流失は小さい.窒素の無機化に関係.

図7.4;窒素の短期間の供給→窒素の量依存.
DON, NH4-N;ゆっくりと変化.窒素利用と関係なし.
300年(窒素制限サイト);DONNH4-Nの合計は全窒素の87
古い年代のサイト:DON+NH4-Nは全窒素の27
NH4-N;植物が利用できる形,そのために低くなっている?
DON;ほとんどの生物が急には利用できない.
NO3-N;生物にとって必要とされていて,系外流出が少ない.

図7.5;15N (d15N)の自然状態での量
若い年代のサイトでは15Nを消費.

ハワイの年代傾度でのDONNH4-Nの流失は,窒素制限下で小さい.
加入と流失の差;加入の方が大きい(図6.12).
高い降水量;窒素制限を高めることになる.DON流失が増加
4000mm以上の降水量があるところ;DONの溶脱によって窒素制限になる
マウイ島の降雨林でもそうなる.
ハワイ島の降雨林でも窒素利用は低い.

リンはPO4-P(溶存無機態リン;DIP)と溶存有機態リン(DOP)として,年代傾度を通して違うパタンになる(図7.3).
DIPNO3-Nとは逆のパタン,若い年代サイトで大きく,古い年代サイトで小さい.
DIPの流失;リン利用とは平行ではない(図4.4b).風化を介したリン加入と関係 (図6.12).

窒素とリンの流失の違い;土壌中のリンの可動性の違い.風化の影響.

DOPの流失;年代で異なる,

溶存有機質(DOM)の化学量論比的組成(ストイキオメトリー)は,DONではなく,DOPの流失の影響を受ける. 

図7.6;土壌中有機物(SOM)C:N:Pの化学量論比的組成(ストイキオメトリー)
DOM;土壌からの抽出液.浸漏計採取は根のあるところ.
C:P比;リン利用が低いところで大
C:N比;あまり変化なし
DOMの化学量論比的組成の違い
DOMからのエステル結合リンが,細胞外リン酸酵素によって除去
炭素結合している窒素の除去は,いくつかの酵素の活性による
これらの流失と低いDIPの流失→生物が利用するには少ない.

3加入-産出の量
加入・産出量;想定での不確定要素などがある.
元素の量の計算;加入と産出の両方の計算の辻褄

3-1量の計算
3-1-1塩化物
生態系での量(バジェット)にとって最も直接的.
海洋性エアロゾルから加入.溶脱から産出.土壌での移動が大きい.

図7.7a
3002万年では加入は産出を上回る.古い年代になると安定.
サンプリングでの問題(浸漏計での測定での問題点).

図7.8a
渓流水ではちゃんと測定されるが,浸漏計では若い年代サイトでは測定されていない(存在しないから).
水文的な流失があるのだろう.
もっともらしいメカニズム;若い年代のサイトは大きな山(マウナロア,マウナ ケア)に近く,海から離れている.
貿易風の山への衝突とそれに伴う大気の動き
硫酸塩;火山活動によるもの.陰イオン交換と土壌での吸着に影響.

図7.7b
古い年代でほぼバランスが一致.産出は若い年代サイトで大きい→火山性の硫黄
産出;火山の影響と森林による硫酸ガスの吸収を測定していない.

3-1-2カルシウムとマグネシウム
ほとんどが大気性の堆積物.
図7.9;両方とも300年サイトで産出の方が大.やがて逆転.
マグネシウムはカルシウムほど劇的に加入と産出のバランスが変化しない.
300年サイトのカルシウムの流失が大きい理由;風化
古い年代サイトでは説明が難しい;大気や霧に含まれる非海塩性のカルシウムが含ま れる.

3-1-3ナトリウムとカリウム
図7.10
ナトリウム;一定の加入.古い年代のサイトで大→海洋性エアロゾル
カリウム;加入が常に一定.若い年代のサイト(300年以内)では加入は大.

3-1-4シリコン
シリコン;海洋性エアロゾルにはなく,玄武岩由来
図7.11
加入;玄武岩から風化
産出;溶脱

3-1-5窒素とリン
図7.12a;窒素
若い年代サイトでは加入が大.古い年代サイトで逆転.
渓流水;NO3-Nが比較的高い.浸漏計では低い→土壌中の経路の違い
窒素;古い年代のサイトでは土壌や植物に蓄積
生態系の発達による窒素のバジェットの難しさ;加入がはっきりしない.

図7.12b;リン
加入は若い年代サイトで産出よりも大→風化由来
バイオマスにおけるリン;リンの貯蔵(シンク)〜風化を考慮していない

窒素とリン;土壌中における現れるスピードの違い

3-2成分量の使用
これまでの総括

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