Alpine plant life: functional plant ecology of high mountain ecosystems輪読会:2006年4月から国立環境研究所の有志で行なっていた輪読会. 2006-05-15~07-03 担当:清野達之
7 Alpine treelines(高山の樹木限界)
前口上 樹木限界が生じるWhyとHow 一般的な森林限界のパターンと気候条件との関係,森林限界が生じるメカニズムの関係の紹介. About tree and lines... 何がtreeで,何がlineか.「樹木」と「限界」 treeの定義:木本植物で,主要部が地上から少なくても3m以上あるもの. ササやサボテン,巨大ロゼットが似たような感じであっても,treeには含めない(後述). lineの定義:自然に生じた移行帯. P77右側下から11行目からP78最後まで 樹木限界には色々な言い方があり,学派による定義もあるということ. timberline, kampfzone, tree species limit, tree line 日本語でも樹木眼界,森林限界などなど Cuurent altitudinal positions of climatic treelines 樹木限界のパターンの気候条件とのレビュー 降雪線との関係:重要な関係→温度条件などに影響 図7.2: 樹木限界と降雪線の世界的なパターン 図7.2: 樹木限界と降雪線の地域毎のパターン 全体的な傾向:高緯度で直線的な関係(50度から30度にかけて) その他のおおまかなパターン 1)樹木限界と緯度の間に厳密な関係はなし. 2)緯度特異的な平均のバラつきは南半球で小さく,北半球で大きい(山塊の分布が影響). 3)降雪線も樹木限界と似たようなパターン. 4)樹木限界と降雪線の間隔はだいたい1100mくらいで,この間なら高山植物がなんとか生きられる. Treeline-climate relationships 樹木限界と気候の関係における問題点 1)異なる気候要因間の自己相関 例えば,同じ標高でも低緯度なら(もともとの)平均気温が高いから,標高が高くても高緯度のところとは違う.また,太陽の動きも緯度によって違うので,生育期間や気温の日変化も違ってくる.要は単純比較はできないということ. 2)平均に埋没される重要な情報(後述) 3)現在と過去の気候が今のパターンに与えている不確実性 樹木の長寿命性からみると,現在の樹木限界が今の気候条件を反映しているのか,過去の気候条件を反映しているか? 図7.4:樹木限界と気温の緯度傾度にそった関係. 上線:最暖月の平均気温 中線:生育期間の平均気温 下線:特に高い山 (熱帯の)回帰線を境に,年間の平均か成長期間のみになるかに留意. 高緯度になるにつれ,最暖月の平均気温と生育期間の平均気温の差が大きくなる. 気候(気温)条件のどこでみるかで,パターンの抽出が異なってくる. 海洋島などでは,全体的なパターンから外れる傾向にある. 生物地理的な要因と気候条件が大陸山岳と異なるから. 図7.5: Polylepis問題〜Polylepisのパッチが形成される理由 暖かい斜面仮説では説明できない(ある場所はむしろ寒いところ). 気温とは別な理由で形成されているよう. 生理的な理由で形成されている(光合成活性・霜の耐性・発芽特性など). 撹乱の影響(火災・食植者). 古生態(花粉分析)からの解析〜「生きている化石」状態 →色々な要素が絡み合って形成される場合の紹介. 図7.6:最暖月モデルの逸脱の例:Espletiaによる「ニセ高山」帯 最暖月モデルはグローバルなスケールでみると,当てはまらないことが多い. 結論として言いたいこと:成長期間の長さがもっとも影響しているのでは? nterzonal variations and pantropical plateauning of alpine treelines 図2で示した広域のパターンを一般化した場合の傾向→図7 山塊効果の説明 図7;平均気温摂氏5度以上,10度以上の期間と,標高との関係. 図8;中央アルプスでの森林限界の変化の例. 山塊効果:海岸林や孤立山岳と比較して,内陸部の山岳地帯で垂直分布の限界が高くなる現象.湿度や照度などの気候条件が影響している. 湿潤熱帯山岳では,明瞭な山塊効果は見当たらない.→降雨量や雲霧帯による影響. 霜や夜間凍結も影響. 補足:土壌栄養塩が変化することでも,山塊効果に似たような現象が生じることがある Tree line in the past 氷河期と後氷期での森林限界の変化;化石や花粉分析の結果から推測. 氷河期:今よりも2000m下. 後氷期:温帯で温度によって100-200mの変化. 現在の森林限界の位置:気候変動の急速な変動には,すぐに対応していない.むしろ,近年は人間活動の影響による変化の方が大きい. Attempts at a functional explanation of treelines 植物の生理的な理由からの森林限界形成の説明.局所的な説明ではなく,一般的な説明. 1.ストレス仮説:凍害による影響 2.撹乱仮説:風や雪氷による物理的なダメージ. 3.繁殖(制限)仮説:繁殖や種子散布,発芽が高山帯ではうまくいかない. 4.炭素収支バランス仮説:炭素固定(同化)の放出(呼吸)のアンバランス. 5.成長制限仮説:同化過程が高山帯ではたいへん. 季節性の有無にも関係 Treeline and climatic stress 植物の芽の耐凍度や冬季の乾燥ストレスによる水分生理的な影響. 図9:森林限界付近での樹木のダメージ.A;ヨーロッパカラマツの秋霜によるしおれ,B;雪カビによるロッキーハイマツのダメージ,C;ムゴマツの食害. 図10:ユーカリの森林限界付近での葉の表面の生理的な変化.写真上;当年枝の表面,写真下;越冬葉.表層が摩耗して,湿度を保てなくなる. 冬季の乾燥は温帯域の稚樹に大きく影響するが,世界的なパターンではない.成長期間も森林限界を決める決定打になっていない. Carbon acquisition, carbon invenstment and growth 光合成活動の成長期間(温度)との関係.要約すると,温帯域では成長期間内の温度が光合成活動に影響している. どこに同化産物を配分し,物質を貯蓄しているのか? 図11;スイスの森林限界での針葉樹の乾物分配比.3種間に明瞭な違いはなく,幹か枝への配分比に若干の違いがみられる. 現在,報告されているデータからでは,炭素バランスから森林限界を説明することは困難な状況. A hypothesis for treeline formation 森林限界が形成される過程での仮説:成長や繁殖などからみた統一仮説? 特に気温による成長への影響から,森林限界が形成されるメカニズム. 図12:ロッキー山脈での森林限界内と風上での根の土壌温度の違い. 図13:NZでの森林限界より上下間での土壌温度の違い. ・ここで言えること:森林内部は樹冠による被陰のため,(直射)日光が入らないので,案外冷えている. ・樹木の成長に最低平均気温で説明がつきやすい理由:シンクよりもソースが一般則に乗りやすい.高山では森林限界でみられるような樹木の低木化(矮性化)のように,微気象の影響を受けやすい(霜,風雪など). ・そのため,同化産物の投資配分よりも,同化効率によって,森林限界と森林限界でみられる樹形が形成されるのでは? Growth trends near treelines 森林限界付近での樹木成長のパターン:低地よりは成長期間がずれる傾向. 図15:ヨーロッパカラマツとドイツトウヒの異なる高度での樹高成長の季節変化. 図16:ドイツトウヒ実生の異なる高度での高さ成長の季節変化. ・低地と高地で成長期間を通して,生育に適した温度が異なり,その温度状態によって成長が規定されている. 図17:森林限界付近のマツの年輪状態.年輪幅の違いに注目. 図18:実験状態下での土壌温度と地上部・地下部の成長の季節変化. 根の成長が終ってから,地上部の成長が始まる. 図19:根の温度が摂氏7度以上にならないと,光合成が飽和しない. ・シンク仮説の支持 Evidence for sink limitation ・森林限界付近の樹木の年輪幅の状態から,成長の履歴を把握(樹木年代学) 図20:森林限界付近の3種の針葉樹の炭素構成(炭水化物+構造炭水化物)の配分比の標高と季節の変化.貯蔵物質の変化に着目. ・森林限界では成長期の始めに貯蔵物質を使って,一気に成長(構造炭水化物への置換)を行なう. |