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森林の更新動態と構造・現存量と生産量の定量的解析
2006-11-16

日本では主に温帯域,海外では主に東南アジア熱帯を対象に,森林構造と更新動態の様子を研究しています.構成樹種の更新過程や構成樹種の移り変わりの様子からみた動態パタンの解明が興味の中心です.森林にプロットとよばれる長期間観察用の調査区を設定し,構成樹種の成長追跡を基に研究を進めています.同時にこれらの森林の地上部現存量と生産力の査定も平行して行なっています.樹から樹々,そして森林までの視点です.
  1. 温帯針広混交林の更新動態
  2. 東南アジア熱帯林の樹種多様性と森林構造
  3. インベントリーデータに基づく東アジア森林の現存量と生産量の把握

温帯針広混交林の更新動態

温帯林の種構成と更新動態様式のメカニズムを探ることが研究の興味であり,目的です.特に温帯林のなかでも,針葉樹と広葉樹から構成される温帯域の針広混交林の成立過程と,その群集動態を明らかにすることを興味をもっています.メインの調査は,北海道は苫小牧にひろがる針広混交林と落葉広葉樹二次林を対象に,樹木個体の成長追跡から森林生態系の長期モニタリングを行なっています.個別には優占種数種の種子生産から実生の生存追跡を通した初期更新過程の解明,特定樹種の空間分布パタンをからみた更新動態の解明などを調査しています.

2004年9月の台風18号によって,これまで長期に渡って樹木個体の成長追跡を行なってきた北大・苫小牧研究林に設置した針広混交林のプロットで,大規模な風害が生じました.この被害を記録し,その結果を基に風害による森林構造と更新動態に与える影響の予測を行ないました.台風による大風で,林冠木の多くが根返りや幹折れを起こし,一日で森林の様子がすっかり変わってしまいました.苫小牧では1954年の洞爺丸台風以来の,実に50年に一度というような大撹乱だったようです.


東南アジア熱帯林の樹種多様性と森林構造

1998年と2000年,インドネシア熱帯林の国際共同研究に参加し,中央カリマンタン州のクランガス林(熱帯ヒース林)と泥炭湿地林の生態系・樹木群集動態のプロジェクトに加わっていました.この調査が熱帯林研究を始めるきっかけとなりました.中央カリマンタンの森林は,珪砂質の土壌であるクランガス林と強酸性の土壌である泥炭湿地林が交互に入り交じる特徴があります.いずれも土壌養分をみると非常に貧栄養の土壌に成立する,ボルネオの低地林のなかでは比較的種多様性も樹高も低い低地林です.そこでは林木群集の成長追跡を基にした樹木群集動態と現存量推定の調査に携わっていました.

2001年からはマレーシアはボルネオのサバ州で研究を行なっています.
サバ州キナバル山の熱帯山地林では,熱帯産の針葉樹 (Agathis kinabaluensis) が広葉樹と混交している林分を目にすることが出来ます.熱帯針葉樹林はどのようなプロセスで成立し,維持されているのでしょうか.熱帯針葉樹の山地林生態系での機能的な役割の解明を目的に,熱帯針葉樹の生理的生態的特徴解析と個体群維持機構の視点から研究を行なっています.

サバ州タワウ丘陵公園の低地混交フタバガキ林では,キナバル山で行われている群集レベルでの植生構造と,標高,気象,栄養塩循環などの環境傾度に沿った生態系の構造・機能と樹種多様性を規定する要因解明の研究とリンクしながら,低地混交フタバガキ林の構造・機能と樹種多様性を規定する要因の解明を行なっています.まずは森林構造と解析を行ないました.ボルネオでも恐らくは有数の林冠の高い素晴らしい森林です.一種のフタバガキ科の樹種が優占する,他の混交フタバガキ林では観られないような特徴がありました.さらに樹種多様性,現存量と生産量,栄養塩循環などの生態系生態学の視点から,他の混交フタバガキ林間での比較解析を展開しています.また,リター動態とリンクした樹木の成長追跡に基づくフェノロジー観測を行ない,低地熱帯林を構成する樹木の成長パタンの観察も行なっています.


インベントリーデータに基づく東アジア森林の現存量と生産量の把握

東アジアという広域で森林生態系は,緯度にそって熱帯林から温帯林,そして北方針葉樹林へと,さらに標高にそって低地林から森林限界へと,環境傾度によって大きく相観が異なります.その変化の様子を種多様性や地上部現存量,純一次生産量などの定量的な数字で表現すると,東アジア広域ではどうのように変化するのでしょうか.それを調べるには広域の森林調査で得られた情報が必要ですが,一人の研究者がカバーできるエリアには限界があります.そこで,森林生態学の研究者の「プロットな方々」のネットワークであるPlotNetにある情報を活用し,実際に測定したデータに基づいて,東アジア森林生態系の種多様性,地上部現存量と生産量が緯度や標高による変化のパターンの定量的な評価を行ないました.そこでは,武生雅明さん(東京農大)が中心となったPlotNet一次解析班に加わっていました. また,「21世紀の炭素管理に向けたアジア陸域生態系の統合的炭素収支研究」という研究プロジェクトに従事していたときは,PlotNet研究での情報を更に追加補てんし,森林の炭素量という視点で情報を整備しました.ここでは更に地下部も含めた情報を整備しました.

森林の現存量や生産力の定量的解析を行なうためには,どのくらいの現存量があるのかを実際に測定するため,相対成長式を作成し,それを基に計算する必要があります.そこで,温帯落葉広葉樹林の現存量と生産量の測定のため,北海道大学苫小牧研究林の落葉広葉樹二次林で行われた刈り取り調査に参加しました.この調査では樹木のみならず,草本層まで含めた地上部の現存量測定,一部は地下部現存量の測定までも行ないました.私は主に林床部の現存量測定を担当しました.林床に生えているツタウルシも渋々と刈り取り,乾燥させました.さて,乾重量を測定しようと恐る恐る乾燥庫の扉を開けたところ,ツタウルシの乾燥成分をまともに浴びてしまい,その後数日痒さに悩まされました.うかつでした.


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